記者は見た!(3)
日曜日の昼下がり。
家族サービスに勤しんでいた記者のケータイが鳴った。
「大事な話があるんで、うちにきてください」
声の主は、コツブ桃山城の島田桃依さんだ。
何か特ダネが聞けるのかもしれない。
嫁に罵られながらも島田さんの家に駆けつけると、
彼女は一枚の写真を手に涙を流していた。
「おなすクンです」
どうしてウサギに「おなす」という名前をつけたのか。
いや、それよりも、このウサギがどうしたというのか?
「私の可愛いペットなんですけど、逃げ出しちゃって……。
私の尊敬する、「放浪の殺し屋」と呼ばれたプロレスラー・ジプシー・ジョーそっくりで、
すぐに放浪の旅に出ちゃうんです」
ジプシー・ジョーといえば、コツブながらも無類のタフネスを誇った往年の名レスラーである。
「あの子は私にとってガードマンのような存在なんです。
あの子がいないと、試合に出られるかどうか不安で……。
はっ、ひょっとしたら、今度対戦するマームとジプシーチームが、
私を動揺させるために連れ出したのかもしれません。
マームとジプシー……ジプシー・ジョー……おなすクン……何かつながりがあるのかしら……」
すっかり気が動転した様子の島田さんの家をあとにし、
駅へと歩いていると、季節感のない装いをした女性が歩いてきた。
キビキック from ゲロマザーファッカーズのふたりだ。
「ちょっとだけ旅行にいってきまーす」
旅行好きのふたりは、わずかな休暇を見つけては旅行に出る。
今回の大会に出場を決めたのも、賞金を獲得して旅行に行くためだと語っていた。
しかし、大会は5日後に迫っているというのに、
旅行になんか行っていてだいじょうぶなんですか……?
そう尋ねた瞬間。
「出る前に負けること考える馬鹿がいるかよ!」
「絶対負けないからな!」
激しい剣幕で罵られてしまった。
彼女たちはきっと、ただの旅行に見せかけて、トレーニングに励むに違いない。
ビッグマッチが近づくたびにサイパンに出かける、あのレスラーのように……。